第34回ひと・健康・未来シンポジウム2025京都
「人間本来の学びと教育」
開催概要
現在、教育は大きな曲がり角に来ている。少子化によって毎年430余りの学校が閉鎖され、小中学校の生徒の34万人が不登校になり、高校生の1割が通信教育、多くの大学が定員割れという状況である。教員の負担も過剰で、現場から離脱する教員が続出している。これまでの教育を大きく見直して、変化の多いグローバルな時代に適合した教育方法を考案し、実践しなければならない。それにはこれまでの教育の歴史を見直し、人間の生き方とは何かを深く考察する必要がある。
2025年12月20日(土)13:30〜16:00
京都芸術センター
京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546−2
(地下鉄烏丸線 四条駅/阪急京都線 烏丸駅 22番・24番出口より徒歩5分)
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担当理事
公益財団法人ひと・健康・未来研究財団 理事
総合地球環境学研究所 所長。人類進化論専攻。野生ゴリラの社会生態学研究で知られる。1952年東京都生まれ。京都大学総長を歴任後、現在は総合地球環境学研究所所長として地球環境問題に取り組む傍ら、大阪・関西万博シニアアドバイザーも務める。著書多数。本シンポジウムでは、教育の大きな曲がり角にある現代において、長年の研究と考察に基づいた人間の生き方を見つめ直す視点から、これからの教育のあり方について問い直す。
現在、教育は大きな曲がり角に来ている。少子化によって毎年430余りの学校が閉鎖され、小中学校の生徒の35万人が不登校になり、高校生の1割が通信教育、多くの大学が定員割れという状況である。教育の負担も過剰で、現場から離脱する教員が続出している。とくに、地域の人々のアイデンティティを支えてきた小中学校がなくなるのは、地域文化の消滅を意味する。これまでの教育を大きく見直して、変化の多いグローバルな時代に適合した教育方法を考案し、実践しなければならない。それにはこれまでの教育の歴史を見直し、人間の生き方とは何かを深く考察する必要がある。
そこで、島根県の海士町で隠岐島前高校を中心とする人づくりまちづくりの実践を例にとり、その事業を担ってきた阿部裕志さんと、教育による地方創生を推進してきた岩本悠さん、そして不登校児や発達障がい児の支援を行ってきた白井智子さんにお話を伺い、未来の教育の在り方について議論する。
講演内容
1978年愛媛生まれ。トヨタ自動車の生産技術エンジニアとして働くが、競争社会のあり方に疑問を抱き、持続可能な社会へのタグボートを目指す人口2300人の島・海士(あま)町に2008年移住、起業。100社以上が参加するリーダーシップ研修「SHIMA-NAGASHI」を行う人材育成事業を中心に、出版社「海士の風」を運営する出版事業、「海士町創生総合戦略」など島の課題を解決する地域づくり事業を行う。
意志ある未来へ挑戦する島・海士町(島根県隠岐諸島)で行うリーダーシッププログラム「SHIMA-NAGASHI」を通じて、腹落ちしたビジョンを語り、周囲の心を動かす企業の次世代リーダーを育む取組についてご紹介します。
人間は本来、身体を通して世界にふれ、自然の中で他者と関わりながら生きる存在です。しかし、効率や成果を最優先する資本主義社会のなかで、人々は孤立し、分断や対立が深まっています。
島根県隠岐諸島にある海士町は、そんな時代にあっても、人間本来の営みが息づく、人口2300人の小さな島です。豊かな自然と顔の見える関係性の中で、一つの社会が完結しています。過疎化による破綻寸前の危機に直面したとき、島の人々は「自分たちの島は自ら守る」と立ち上がり、産業づくりや教育改革に挑戦しました。その総力戦によって、今では1000人を超える挑戦者が集い、人口減少にも歯止めがかかっています。
この「挑戦する島」海士町を舞台に、社会を牽引する次世代リーダーを対象に行うプログラムが「SHIMA-NAGASHI(島流し)」です。経験や過去の延長では未来を予測できない時代に、私たちは未来を“つくる”しかありません。データや理屈ではなく「心を動かす力」こそが、これからのリーダーに求められています。それは、海士町のリーダーたちの姿でもあります。
SHIMA-NAGASHIでは、大自然の中で五感を使う「身体知」、静かな環境で感じたことを深める「内省」、島民との交流を通じて思いを共有する「対話」を重ね、三段階の「腹落ち」を実践します。
――自分自身への腹落ち。
――社会や組織との重なりへの腹落ち。
――そして、他者の心を動かす腹落ちへ。
そのプロセスを通じて、リーダーとしての「物語の原点」を見いだしていきます。
学生時代にアジア・アフリカ20ヶ国の地域開発の現場を巡り、その体験学習記『流学日記』を出版。その印税等でアフガニスタンに学校を建設。幼・小・中・高校の教員免許を取得し卒業後、ソニーを経て2007年より海士町で隠岐島前高校の魅力化に従事。2015年から島根県教育庁の特命官として教育による人づくり・地域創生に携わる。2016年特別ソーシャルイノベータ―最優秀賞を受賞(日本財団)。
海士町や島根県での高校魅力化の取組や全国に広がる地域みらい留学の挑戦などから、教育による地域づくり・未来づくりの要諦を考えていきたいと思います。
人口減少や少子化が進む今、教育の地域・社会における価値と重要性は高まっている。生産年齢人口が急速に減る中で、一人一人の能力や創造力が教育や学びによって高まらなければ地域・社会は持続できない。また、魅力ある教育環境がある地域には若者や子育て世代が集まり、学校という教育機能を失った地域は、若者の流出や少子化に歯止めがかからなくなり、地域の持続可能性は失われていく。
そのような時代において、地域の高校へ越境して学ぶ「地域みらい留学」という取組が、教育と地域の両方の側面から注目されている。
これは、通学圏内の中から偏差値軸で行ける学校を選ぶという旧来の選びの常識を越え、全国の170以上の地域から自分軸で、行きたい環境を選べるという仕組みである。生まれた環境は誰も選べなくても、学ぶ環境は誰もが選べる社会づくりともいえる。
異なる文化や環境のなかに飛び込む越境体験のなかで、地域留学をした子どもたちは更に、「教室の中で、教師と教科書から教わる」という従来の枠を越え、「地域に飛び出し、多様な大人と様々な社会活動や体験から学ぶ」という身体性を伴う真正な学びを通して、幸せに生きる力と地域・社会の未来を創る意志を育んでいく。
一方で、この取組は地域側にも未来を創る力を育んでいる。全国から集う生徒たちの存在が、地元の子どもや住民に新しい刺激を与え、地域の魅力や誇りを再発見するきっかけとなる。外からのまなざしによって地域の価値が見直され、卒業後も関係人口として関わり続ける意志ある若者が増えていくことで、地域の持続可能性も高まっていく。
教育が変われば、地域が変わる。地域が変われば、社会が変わる。教育による人・社会・未来づくりが始まっている。
社会起業家/こども政策シンクタンク代表取締役。1972年千葉県生まれ。東大法学部、松下政経塾卒。日本初の公設民営フリースクールや被災地の保育施設などを設立・運営。新公益連盟代表理事を2期務め、現在は多様な学びの推進と政策提言に取り組む。政府の審議会委員、TBS「ひるおび」コメンテーターなどもつとめる。新刊『脱「学校」論』。
不登校児童生徒が34万人に達している今、我が国の教育システムの現状とアップデートをどう考えるか、25年のフリースクールでの現場経験から提言します。
不登校児童生徒が35万人という現状から、どうやって「誰も取り残されない」状態に近づけていくか。その鍵は、どんな環境に生まれても、アタッチメント形成ができる社会をつくることにあると私は考える。
二十五年余、学校や社会からの排除を感じた結果メンタル不調に陥った状態から、回復していくこどもとその家族をそばでみてきた。状況は違えど共通していたのは、安心安全な居場所で「自分が大切にされている」という実感が芽生えるとき、表情がほどけ、学びが動き出すという事実だ。逆に、どれほど制度や教材を整えても、傷ついた心のままでは学びの場に近づけない。
私は不登校やひきこもり、貧困や虐待などの課題とたたかう数千人のこどもたちとの出会いから、一つの正解で全員を包み込むことはできないことを学んだ。必要なのは、こども自身が自分の人生を切り拓き、選び取れるという実感である。
家族や特定の誰かに依存する仕組みではなく、予測不能な揺らぎに耐え、回復の時間を保障する関係性の網が社会に実装されるべきだ。その網は一重でなく、人生の局面に応じて幾重にも用意されているとよい。こどもの歩幅は大人の都合よりもゆっくりかもしれないが、その歩幅が尊重されたとき、可能性は静かに広がる。私が見てきた無数の変化が、その方向の確かさを教えてくれた。
だからこそ私は、選択肢を増やし、多層的にセーフティネットがある社会をつくりたい。これまでの経験を参加者と共有し、誰もが生まれ持った才能や情熱を解き放てる社会をつくるのに何ができるか、共に考える時間としたい。
